2023年12月08日

地主さんの平等分割の問題点(2)

前回のブログの続きとなりますが、地主さんの平等分割の問題点として、「今の生活が維持できるかどうか」ということがキーワードとなります。

今の生活が脅かされそうになれば抵抗するのは当然です。これは地主さんに限った話ではありません。

たとえば実家に長男が同居、次男は別で世帯をかまえており、親に資産が自宅2000万円、現預金200万円で親の相続が発生し、60-70歳で親の財産を兄弟が相続することになったとしまし、次男が法定相続分の半分を主張したとしましょう。

次男の主張は法律にのっとった正当なものです。実家を長男に譲れば、仮に現預金をすべて相続したとしても、1/10の資産しかありません。

ただし、次男の主張通りに遺産分割すれば、長男は住んでいる自宅を出ていかなくなってしまうため(今の生活が維持できなくなるため)争いとなってしまいます。

つまりこれは資産額の分割という単純な数字の問題ではなく、不動産と生活が維持できるかという問題が入り組んだ問題となっているのです。

地主さんの相続はこれの資産規模が拡大し、先祖伝来の大きな自宅や土地を維持するための「資産税(固定資産税)」支払い、不動産経営等が絡み、さらに複雑化しています。

先ほど同様、問題を複雑化させている要因は、「不動産の問題」と「生活維持の問題」です。

そのため対策として以下のようなものがあります。

  • 金融資産割合を増やす

地主さん中には資産の八割九割が地元不動産だという方が見えます。金融資産比率が多いほど遺産分割では柔軟性が高まります。また、今後地主さんには、金融資産をきちんと確保すべき理由が3つあります。一つ目は相続税納税資金です。一昔前は相続後に土地を売却し、納税するといったことも多かったのですが、現在では相続後の売却による減税幅も縮小してしまいましたし、何よりいつ、いくらで売却できるか分からないという不確定要素を考えるとできるだけ現金で納税できる準備をしておく方が良いです。二つ目は資本的支出です。賃貸物件の設備等の交換費用は築20年以降に急激にかかりだすので積み立てておき、物件と共に相続させる必要があります。そして三つ目が分割資金です。跡継ぎ以外への相続はできれば現金で調整できると相続がスムーズにいきます。この金額は一昔前に比べて多く必要になってきています。

  • 遺産分割後の各々の不動産運用の健全性

自宅を含めて、不動産全体が維持していけられるか、また、今後、維持し続けられるかというポイントを相続後の各相続人の資産で確認します。これが「今の生活が維持できるかどうか」というポイントとなる訳ですが、相続評価では不動産運用の健全性は把握できないため注意が必要です。

野村開発、資産コンサル部門では相続前、相続後の不動産運用の健全性の確認のお手伝いもさせていただいております。お気軽にお声がけください。


2023年09月26日

心地良い資産の持ち方

前回のブログで地主さんの大きな自宅が次代にそぐわなくなってきて、負担になってきた方が多い旨のお話しをしました。

私が地主さんのコンサルをする上で、重要視してるものの1つとして、その方やその方の家族にとって「心地良い資産の持ち方はどういう持ち方か」というものがあります。

これは、私が不動産業会で働く始めて間もなく、リーマンショックがあり、それから数年間、賃貸市場が悪化し、資金繰りの心配をする地主さんをたくさん見てきたということも大きく影響していると思います。

「BS(バランスシート)リッチ、PL(プロフィット・ロス)プア」という言葉を聞いたことがありますか? これは、地主さんが保有する資産は豊富でも、収益が厳しいという状況を表す言葉です。これをもう少し乱暴にかみ砕いて言うと、「相続税は高いが、生活はそれほど豊かにならない」ということになります。

地主さんが「BSリッチだが、PLプア」と言われる所以は相続対策による賃貸物件の建築が要因のひとつです。

また、相続税節税目的での賃貸物件比率が高い地主さんは、借入が多いために特に資金繰りが厳しくなることがあります。

そういった面で、何度もお話ししているように相続税の節税をメインとしたこの業界の相続対策に疑問を持っています。

自分のいなくなった後の相続対策をして、自分が生きている間の生活の心配事が増えるという対策には疑問があります。しかもこのような対策は結果的に次の世代まで連鎖し、同じことの繰り返しです。いつも言うように、「相続対策は世代を越えて生きている人を豊かにするもの」でなくてはいけません。

運用や投資の健全性は、私が指摘することができますが、「心地良い資産の持ち方」に関しては個人差が大きくあります。借入を負担に感じる人も、あまり負担に感じない人もいます。

自分や家族にとっての「心地良い資産の持ち方」というものを模索する必要があります。世代間格差がありますので、できれば家族と相談しながら。このことの方が数百万円相続税を節税するよりよっぽど重要です。


2023年09月01日

地主さんの自宅売却(2)

前回の続きです。時代にそぐわなくなり、維持が大変となった大きな自宅敷地の一部の売却を検討する場合、税金以上に注意すべき不動産の特質とは何かということですが、それは、大きな敷地の一部を売却する場合、売りやすい前面部分が売却され、残った土地が、売りにくく、さらには著しく安くなってしまう場合があるということです。

 

これは、三河において、主要駅付近の分譲マンション適地以外の地積規模の大きい土地は何区画住宅用地が取れるかにより、価格が大きく左右されるためです。例えば、200坪の5区画で割れる土地と300坪の4区画でしか割れない土地では、前者の200坪の土地の方が総額で高く売れることがあります。大きな敷地の一部を売却する場合、前面の売りやすい部分を売ってしまうことによって、全体で取れる区画が減ってしまい、土地全体の換金価値が著しく減ってしまうことがあるため注意が必要です。そのため一部の土地を売却するとしてもまずは土地全体のポテンシャルを確認する必要があります。全体の区画割を考えて、それに支障をきたさない様に計画する必要があります。

 

これは売却に限らずとも、大きな敷地の母屋、離れどちらかを建て替える際や一部にアパートの建築を検討する場合にも同じことが言えます。


2023年08月07日

地主さんの自宅売却(1)

地主さんにとって先祖伝来の土地を売却する、それはとても大変なことです。一昔前はそれを口に出すことさえタブーとされていました。ましてや先祖伝来住み続けてきた自宅を売却するということは物凄くエネルギーが必要な決断です。決断される方は、みなさん聡明で、過去に感謝しつつも、未来に目を向けられており、尊重されるべき決断だと考えています。

近年、このようなご相談や決断をされる方が増えてきましたので、この点に関してお話ししたいと思います。

時代とともに価値は変わっていきます。セミナーでよくお話ししていることで、かつて先祖伝来の田んぼを売ってしまう人のことを「田分け者」と言いました。それは一時的なお金を得るために、生活の生業であった田んぼを売ってしまうことで今後の生活が成り立たたなくなる可能性が出てくるためです。時代は流れ、農業を生活の生業としなくなった地主さんのご自宅はかつて農業用倉庫等があった時と同じように大きいままです。大きな敷地は固定資産税の支払いや維持管理が大変ですが、農地等であった別の土地の運用で賄ってきました。ただし、今では相続税の支払いや遺産分割等による資産の分散で跡継ぎに残す収入を生む不動産が減ってきており、大きな自宅を維持するには、サラリーマンでは大きな負担となってしまいます。

実際、税制面に関して、土地の面積が大きくなればなるほど、維持していく面でも、相続で受け渡す面でも、割高になってしまうのです。

不動産を維持していく面の固定資産税は、ざっくり言うと、約60坪を超えると単価が倍になってしまいます。

次世代へ受け渡す面での相続税の自宅敷地の評価は、諸条件はありますが、△80%の20%となります。これも100坪を超えた場合は適用がありません。

つまり、税制では単純に面積で判断して、60坪、100坪を超える自宅敷地を持っている人はお金持ちなので税の軽減はしなくて良いという判断なのです。

それでは、時代にそぐわなくなってきた大きな自宅敷地を一部売却しようということになりますが、ここで税金以上に注意すべき、不動産の特質があります。この点に関しては、次回お話しさせていただきたいと思います。


2023年04月15日

受け継いだ資産額以上のものを次世代に残すことはできるのか

受け継いだ資産額以上のものを次世代に残すことはできるのか こんにちは。野村開発株式会社資産コンサルティング家 山本です。
ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
2023年4月22日(土)開催予定のセミナーに向けて、皆さまに知っていてほしいことをお伝えしてまいります。

 

 私は常々、相続対策の優先順位として「節税の優先順位は低い」とお話ししております。これだけ聞くと、資産に応じて納税し、相続のたびに先祖伝来の資産が減少していくのは仕方ないという方針でコンサルティングをしていると思われるかもしれません。実は全くそうではなく、相続対策として「受け継いだ資産額以上のものを相続税納税後に次世代に残せるか」ということも非常に重要視しております。

そのうえで、資産を残すという観点から考えても、相続税の節税の優先順位は低いと考えているということです。

それでは、「受け継いだ資産額以上のものを次世代に残す」ために、私が何を重要視して、何を評価基準としているかというと、「ROA」という指標です。

「ROA」とは「総資産利益率」のことです。これは専門家により定義の仕方が異なり、また株式指標の定義とも異なりますが、私が地主さんのコンサルティングで利用する際の定義は、分子に「税引き前収支」、分母に「相続税評価額」として利益率を測っています。

  たとえば、相続税評価1億円を受け継いでおり、10年後の相続、相続税率20%と仮定してA:ROA1%(1億円×1%=100万円/年)とB:ROA10%(1億円×10%=1000万円/年)を比較してみましょう。利回り10%は非現実的な仮定ですが、ROA10%の物件はザラにあります。

A:ROA 1%の不動産  1億円+(100万円×10年)=1億1000万円

     △相続税(1億1000万円×20%)2200万円→「8800万円」

B:ROA10%の不動産  1億円+(1000万円×10年)=2億円

     △相続税(2億円    ×20%)4000万円 →「16000万円」

 Aの場合、10年後に相続が発生すると、それまでの収益を一切使わなくとも、次世代に同じ1億円として引き継ぐためには、さらに1200万円捻出しなければいけません。これでは何のために資産を維持していたのか分からず、自分たちが使ったわけでもないのにもかかわらず、相続のたびに資産を縮小させていくことになります。これが地主さんの財産が「三代の相続で財産は無くなる」と言われる一因です。

ここで着目すべきはより多くの資産を次世代に残すことができるBの方が相続税をよりたくさん払っているという点で、「受け継いだ資産額以上のものを次世代に残す」ためにも、節税の優先順位は低いとお話ししている理由です。

さらに実務としてこれが問題なのは、Aのような物件やAのような状態は問題が顕在化されず、放置されがちであるということです。

 

不動産を、「富」動産、「負」動産、「浮」動産と分けて考えることがあります。

「富」動産、「負」動産はとても分かりやすいですね。

富動産:潤沢な収入が入り生活を豊かにしてくれる不動産(ROAが高い)

負動産:固定資産税や草刈り等の出費がかさみ、運用も売却も困難な不動産

ということで、問題が明らかなので、何か対策を講ずべき対象と認識しやすい不動産です。

問題は「浮」動産です。一部のROAが低い駐車場等のように、所有している時点では問題が顕在化されず、相続まで考えた線で考えなければ問題が浮き彫りにならないため、そのまま放置されてしまいがちです。

もちろん相続対策として考えた場合、資産全体のROAを上げていく必要があります。この場合、ROAの高い資産を増やしていくというアプローチより、重要なことは、「負」動産、「浮」動産の売却や資産の組み替え、適正化を優先的に考えます。

たとえば、自宅はROAがマイナスとなります。特に地主さんは200から300坪以上の自宅敷地であることがあります。資産全体のROAを考えた場合、自宅からの支出の問題よりも、ROAの定義上、分母となる資産(この場合相続税評価額というより時価)の有効利用できていないということに問題があり、これもROA観点上相続対策の大きな問題であり、顕在化されにくい問題のひとつです。

もちろん自宅は住まいなので、人生の質を考慮する必要があり、ROAだけを考えてどの様にするかを決めることはできませんが、必要以上に大きい自宅敷地である場合は、長期の家族計画として、どの様に適正化していくかを検討しておく必要があります。大きすぎる自宅は相続対策上も、維持していくという観点からみても大きな負担となります。

資産を色分けして整理しましょうと何度も繰り返しお伝えしている理由は、上記の考えの出発点となるからです。

それでは資産全体のROAをいかに上げるかを評価基準として、突っ走れば良いのかというとここには大きな落とし穴があります。相続対策より重視すべきこととお伝えしている「生活」を破綻させてしまう可能性があります。ROAを追及していくにあたり、何に注意していくべきか、何を追加指標とすべきかについては、今回のセミナーでお話しさせていただければと思います。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
セミナーのご参加、お待ちしております。
ご質問や個別相談も無料で承ります。
お気軽にご連絡ください。
野村開発株式会社 山本令祐

付言から始める相続対策セミナー
日程:2023年4月22日(土)10:
00より
会場:知立市商工会館2階大ホール
※一部お渡ししているパンフレットには、知立市中央公民館と表記がございますが、
都合により、知立市商工会館に変更いたしました。
お間違えのないよう、ご確認の上お越しください。
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