わたしは、安城市で幼少期を過ごし、高校生の時に、知立市にいる母方の祖父に介護が必要となり、高齢の祖母だけでは介護が大変だという理由で、家族みんなで母方の祖父母の家に引っ越しました。母方の実家の跡継ぎであった叔父は若くして亡くなってしまっており、姉が養子となったのですが、その姉も結婚して出て行ってしまったので、私が養子となりました。自宅をバリアフリーにして、介護業者さんの力を借りながら、約8年間の介護ののち、祖父は他界しました。介護疲れとお葬式の疲れも癒えぬ前に、多額の相続税が発生することが分かりました。わが家もご多分に漏れず、農家の地主に良くありがちな相続税評価上の資産はあっても、現金はありませんでした。母親もずっとパートを続けている家庭でしたので、相続税額が分かった時は、うちは終わったと思いました。それからネットや書籍を読み、建築会社さんや税理士さんの話を聞いて、相続税と建築費を借入し、不動産運用により返済していく計画を立て、新規の物件の建築と資産管理会社の立ち上げを行いました。
そして、不動産運用のリスク管理を勉強するために、不動産業者への就職を希望しましたが、最初に希望した大手不動産業者は、最初の勤務地が岡山とのことであったため、今まで生きてきた中で岡山の人に一回もあったことがなかったため外国と同じだなと思い、お断りしました。そして、実家から離れず、働けられる不動産業者を探し、ご縁があって地元不動産業者である野村開発に入社させて頂くことが出来ました。
入社後約1 年間は、お部屋を探されている方に賃貸住宅の紹介をさせて頂いておりましたが、当時、野村開発の中心で仕事をされている方の急病等があり、地主さんの相談をする部署へと移りました。そこで、建築提案、一般定期借地、事業用定期借地、分譲マンション用地の売却、分譲住宅用地の売却など、一億円を超える取引を年に何件もさせて頂きました。
最も懸念すべき問題は、リスクを把握してきれていないことだと思います。相続税の節税というお金のことだけに囚われると、それよりも優先すべき、分割、相続争いのリスクや賃貸経営リスクが見えなくなってしまいます。賃貸物件の借上げは、手数料を払うことにより、短期的な賃料収入の変動を少なくする保険の様な効果はありますが、賃貸経営で最も厳しくなる借入返済期間の後期に運用収支マイナスがならない様に保証するものではありません。
相続税と聞くと周りが見えなくなったように、節税のみしか考えられなくなる方が見えますが、節税より分割が大切なのは、冷静になって考えるとあたりまえです。1億円の資産を残して子どもが揉めるより、8000万円になったとしても仲良くしてほしいと親なら誰でも願うと思います。借金が恐いというのもまともな感覚です。借金を返すのは不動産業者でも建築業者でもなく、当事者です。あたりまえのことやまともな感覚に、耳を澄ませてください。そもそも相続税は納税金額を把握し、納税方法さえ決めておけばリスクではありません。資産を固定化させてしまうことで、分割方法や出口戦略に制限がかかってしまうことや借入金比率の高い賃貸経営の将来的な収支予測などの不確定要素が大きくなることの方がリスクとなるのです。
遺産分割争いになった方で、「先祖が不動産を残したから揉めた。不動産なんかなかった方が良かった」と言われた方も見えました。
不動産という資産は、所有時に上手くコントロールすることと、相続時に上手く承継出来ないと荷物や負債になりかねません。ご先祖様から受けついだ大切な資産を、心配や争いの種にしてしまうのか、宝物に出来るのかは一定の知識とノウハウが必要です。今後の30年は、今までの30年とは不動産市場や税制が全く異なるのでよりそれが顕著になると思います。
遺産分割で争っている場合、双方が、各々正しいことを言っていると感じることがあります。次男は、法律で定められた法定相続分を主張して、長男は家督相続の様に資産の大部分を主張する。
第三者が、上記の様な話を聞くと、長男が強欲な様に感じるかも知れませんが、現場で
立ち合っていると長男に肩入れしたくなることが多々あります。
例えば、長男が親と同居して、休日に、お寺や地元の手伝いをしながら、農業の手伝い
や草刈りをして、家族の問題を共に解決してきて、親の介護が必要になった時には明確
に親の資産と長男の資産を分けられていない方もたくさんお見えです。一家の資産を個
別でなく、家族で苦労やリスクと共に共有し、先祖代々のお墓を跡継ぎの方が守ってい
きます。この様なお家はほぼ家督が残っている様なものであると感じますし、前述した様に、地主さんは、B/S リッチでP/L リッチではない方が多いため、資産からの享受が少ないため、現金がそれほど多くなく、余裕がある生活を送れる方ばかりではありません。
また、複数物件での賃貸運用含めて、事業をやられている方は、全体で成り立っており、部分的に切り離してしまうと成り立たない様なことも多いと思います。
このようなお家の方は、現行の法定相続分と現実のギャップがあるため、きちんと被相続人さんが伝えておかないと相続争いとなります。
最も有効な解決策は、法律ではなく、兄弟同士の横の関係の争いになる前に、縦の関係
である親がきちんと分割の仕方とその分割にした理由と気持ちを示すことだと思います。
この理由や気持ちを示すことを、遺言では付言と言います。
各々の家庭によって事情は違いますが、このような内容の付言を聞いたことがあります。「跡継ぎは、先祖から引き継いだあったものはそのまま引き継いでいくだけ。跡継ぎには
墓守、家を守っていくということ含めて大変なこともある。余裕がある分や増えた分は平等に分ける。誰かのことだけひいきにしているわけではなく、平等に思っている。兄弟で助け合って仲良くしていきなさい。」
この一言があるだけで、遺産分割協議含めて、その後の相続人さんたちの人生は変わる
と思います。
わたしどもは、経済合理的な追及はできても、星の王子さまの一節に「本当に大切なものは目に見えない」とあるように、その方にとって、その方の家族にとって大切なものは分かりません。ご本人が決める必要があり、責任があります。相続から相続の間の期間を25年と仮定すると、全資産を複利3%で運用すれば、相続税率が55%の方でも、資産額をほぼ減らさずに相続させることも可能です。このようなご提案も可能ですが、逆に相続人さんに心配やリスクを負わせないために、一部資産を売却して、相続させることも尊敬すべき選択肢の1つだと思います。子どもや孫が、先祖が残した財産をありがたいと思ってもらうことが1番の対策です。
自分が亡くなった後、残された家族にどの様に暮らしていってほしいのかを教えてください。
考えや価値観を教えてください。そこから相続対策が始まります。
相続税の節税対策からでは相続対策は始められません。
2018年6月吉日