2021年12月01日

No.5 地主さんが土地を売却するということ

今回は、守り続けてきた土地を手放すまでの地主さんの葛藤をクローズアップしてお話をします。

相続において「土地」に対する価値観が変化してきました

15年くらい前に地主さんの相談を始めさせていただいた際、当時は土地を売却するということに関して、その言葉を発すること自体、タブーのような雰囲気がありました。

地主さんは、農家の方が多く、かつては農業を生業としていたので、田んぼや畑を売ることは生活の糧を減らしてしまうことでした。それゆえ、「たわけもの」の語源は、「田分け者」と言われることもあります。
その後、日本は高度経済成長時代に入り、人口の増加とともに地価も上昇していきました。専業農家の方は、兼業農家となっていきましたが、手間暇、費用をかけても土地を所有しておけば価格が上がっていったので、手放さない方が良い時代でした。住宅不足もありましので、農地に賃貸物件を建築すれば入居に困ることはありませんでした。それゆえ賃貸物件の建築は「土地活用」と言われました。

ところが、最近では先祖伝来の土地を維持・相続していくことは、困難になってきました。要因として、以下のように考えられます。
 

No.5 地主さんが土地を売却するということ (1) 賃貸物件建築における収支の悪化
理由:建築費高騰
   民法改正による修繕費の負担増
   社会的欲求に合わせた設備増による
    資本的支出の増加
   供給過多、人口の頭打ち等

(2) 2015年相続税の増税、相続税の取得費加算の増税
 納税のため、相続した財産(土地や有価証券など)を売却する場合、財産を相続することによりかかる相続税のほかに、相続財産を売却したことによる譲渡税がかかります。そこで、相続から一定の期間内に売却する場合、相続税と譲渡税が相次いで課されることによる負担を軽減するために設けられた制度が「相続税の取得費加算」制度です。
以前は、譲渡していない土地等に対応する相続税相当額も取得費に加算されていたのですが、この改正により2015年以後に発生した相続については、相続した土地を売却しても、その譲渡した土地に対応する相続税相当額のみしか取得費に加算できないことになり、実質増税となりました。

上記のような理由から、税制のメリットは薄れ、不動産売買の特徴である、いくらで売れるかわからない、現金化するまで時間がかかる、そもそも売れるかわからない、というデメリットさが上回り、先祖伝来の土地を相続発生前に売却する方が増えてきました
それでも、その決断をされるまでにほとんどの地主さんは迷われます。
先祖伝来の土地を自分の代で売却してしまって良いのか」と。

「土地」ではなく、「資産」を守る
地主さんは先祖伝来の土地を守りたいと思うものですが、現代において、土地を守ることに固執すると、不動産の最有効利用や相続対策が上手くいけないだけではなく、将来、所有している人の負担となる不動産、いわゆる「負動産」となりかねません。
また、昨今の地主さんの相続をうまく行うためには一昔前に比べて現金がたくさん必要になってきました。資産における不動産比率が大きい地主さんは特に注意が必要です。


(1) 相続税(納税資金)
かつてはこの資金だけどうにかすれば良いという考えでした。しかし、相続の際、土地を売却して納税しようと考えている地主さんは注意が必要です。その様な土地は大きい場合が多く、価格と流動性が市況にかなり影響を受けます。2014年までであればそれを考慮しても税金面でメリットがありましたが現在の税法を考慮するとタイミングが読めない相続時の売却はリスクの方が大きいと考えています。

(2) 資本的支出
前述したように、賃貸物件は社会的欲求が増してきたことにより設備をどんどん増やしています。「所有権には管理責任」が伴います。良いシステムキッチン、良い洗面台、エアコン等、入居時につけて設備の管理責任は貸主にあります。修理、交換費用は貸主負担です。築年数が15年程度を迎え、借入があり収支が少ない物件はこの設備交換費用(資本的支出)も現金で相続しないと大変なことになります。

(3) 分割資金
かつて日本は家督相続と言って、長男が全部相続することが法律でも認められていました。今の法律ではすべての兄弟は平等です。地主さんの運用状態を見ていると多くの場合、一定の規模を保つことでバランスを保っています。一部が無くなると立ち行かなくなる状態です。このような中で相続により資産が分解されると先祖伝来の自宅さえ維持していけなくなります。現在、相続人さんは後継ぎ関係なく、法律で認められている通りに権利を主張される方が多くなってきました。各々の生活を守るために調整できるのが現金です。土地は細かく分けれません。

上記主に3つの理由により、地主さんの相続には現金がたくさん必要になってきました。相続税の納税資金だけでは足りません。子どもさん、お孫さんがどの様な生活を送ることができるか、円満な関係を維持できるかを考えて相続対策をする必要があります。

では、具体的に何から始めたらいいの?
そのためにはまず、みなさんにとっての資産を再定義し、子どもさん、お孫さんにとっての資産はどの様なものなのかを確認するところから始める必要があります。
年末年始でお会いする際は、このようなお話しをしてみてはいかがでしょうか。


今回で、「古くなったアパートで考えること」というテーマのお話しは最終回です。最後までお読みいただきありがとうございます。年明けより、新しく身近なテーマを取り上げ、シリーズ化して皆さまにお届けいたします。




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